階級の壁を越えたボクサーの強さ指数ともいうべき「パウンド・フォー・パウンド(PFP)」の現役ナンバー1に推されることもあるWBO世界ウェルター級王者のテレンス・クロフォード(31=アメリカ)が、09年から12年にかけてスーパー・ライト級のWBA&IBF王者だったアミール・カーン(32=イギリス)の挑戦を受ける。
34戦全勝(25KO)のクロフォード、37戦34勝(20KO)4敗のカーン。
ともにスピードに定評があるだけに、序盤から目の離せない試合になりそうである。
世界戦で12戦全勝9KOの3階級制覇王者クロフォード
「ハンター」のニックネームを持つクロフォードはアマチュア時代に70戦58勝12敗という戦績を残しているが、国際大会での華々しい活躍はなく全米大会での準優勝や3位といった実績が最高だった。
08年にプロ転向を果たし、11年にはトップランク社とプロモート契約を交わしたが、キャリア前半は比較的慎重なマッチメークが目立った。
08年秋にトラブルから頭部に銃弾を受けたこともあり、回復度や耐久力などが不安視されていたのかもしれない。
しかし、WBO世界ウェルター級王者のティモシー・ブラッドリー(アメリカ)らとスパーリングをこなすなどして地力をつけ、14年3月にはイギリスのグラスゴーで地元の人気者、リッキー・バーンズ(35)を攻略、WBO世界ライト級王座を獲得した。
初防衛戦では3階級制覇の実績を持つ当時無敗のユリオルキス・ガンボア(37=キューバ)から4度のダウンを奪って9回TKO勝ち。
これで実力をアピールすると同時に一気に知名度を上げた。
V2戦では、のちに世界王者になるレイムンド・ベルトラン(37=メキシコ)の強打を封じ、大差の判定勝ちを収めている。
このあとスーパー・ライト級に転向し、トーマス・デュロルメ(29=フランス領グアドループ/プエルトリコ)との決定戦を6回TKOで制してWBO王座を獲得。
2度防衛後にはWBC王者のビクトル・ポストル(35=ウクライナ)に勝って王座を統一し、さらに17年8月にはWBAとIBF王座を持つジュリアス・インドンゴ(36=ナミビア)に3回KO勝ち、4団体王座のコレクションに成功した。
昨年6月にはウェルター級に転じ、ジェフ・ホーン(31=オーストラリア)を9回TKOで下して3階級制覇を成し遂げた。10月には元WBA暫定世界スーパー・ライト級王者のホセ・ベナビデス(26=アメリカ)に12回TKO勝ちを収め、初防衛を果たしている。
世界戦で12戦全勝(9KO)をマークしているクロフォードはスピードとテクニックに秀でたサウスポーだが、対戦者との相性や機をみて右構えで戦うこともある。
パワーヒッターの印象は薄いが、好機には一気に連打を見舞ってダウンに繋げることも多く、このところ世界戦で5連続KO勝ちと充実している。
17歳で五輪銀 22歳で戴冠果たしたカーン
パキスタンからイギリスに移住した両親のもとに生まれたカーンは11歳でボクシングを始め、17歳8ヵ月で出場した04年アテネ五輪ではライト級で銀メダルを獲得して注目を集めた。
アマチュア戦績は99戦89勝(31KO)10敗といわれる(他説あり)。
「3年以内に世界王者になる」と宣言してプロに転向し、実際に3年目には世界上位まで進出していたが、ここで不覚の1回KO負けを喫して挫折。
しかし、その10ヵ月後、ライト級からスーパー・ライト級にクラスを上げてWBA王座を獲得してみせた。クロフォードが6年かかって26歳で初戴冠を果たしたのに対し、カーンはプロ4年、22歳で王座を手に入れた。
ドミトリー・サリタ(ウクライナ/アメリカ ※現在は世界挑戦を控えるヘビー級のジャレル・ミラーらのプロモーターを務める)、ポール・マリナッジ(アメリカ)、マルコス・マイダナ(アルゼンチン)らを退けたあとIBF王者のザブ・ジュダー(アメリカ)に5回KO勝ちを収めて2団体の王座を統一。
こうしてスターからスーパースターへの階段を上り始めたと思われた矢先、伏兵レイモント・ピーターソン(アメリカ)に足を救われ(12回判定負け)、ダニー・ガルシア(31=アメリカ)には打たれ脆さをつかれて4回TKO負け、無冠に戻ってしまった。
これが12年7月のことである。
この時期と前後してクロフォードが右肩上がりの成長曲線を描いているのとは対照的といえる。
また、列記してきたカーンの対戦相手のうちガルシア以外は活動を終えている点も興味深い事実である。
年齢こそ1歳違いだが、ふたりの旬が異なっていることが分かる。ただし、20日の直接対決によって逆転する可能性があることも忘れてはならない。
カーンは3年前に155ポンド(約70.3キロ)の契約体重でWBC世界ミドル級王座に挑戦。スピードを駆使してサウル・カネロ・アルバレス(28=メキシコ)と5回までは互角に渡り合ったが、右を浴びて6回KOで散った。
しかし、2年の休養後、ホエル・カサマヨル(キューバ)やディエゴ・コラレス(アメリカ)ら数多くの世界王者を指導してきたジョー・グーセン・トレーナーとコンビを組んで戦線復帰。
18年には世界ランカーを下すなど2連勝を収め、今回、再びスポットライトを浴びることになった。
「厳しい戦いになると思うが、勝利を確信している。スピード、体格など私はクロフォードに勝つために必要なものを備えている」と自信をみせている。
クロフォードが圧倒するか カーンが右ストレートを打ち抜くか
ともにスピードに定評があるだけに、初回からピリピリした試合になりそうである。
クロフォードが左右どちらの構えでスタートするのかという点にも注目したい。
厳しい戦いが予想されるカーンとしては左ジャブで煽り、相手を下がらせながら切り札の右ストレートを狙うパターンに持ち込みたいところである。
そのうえで腰の入った右を打ち抜くことができればイギリスのファンが歓喜する場面を作り出すことも可能だろう。
ただし、巧みな位置どりをしながら圧力をかけ、ときには俊敏にいなすクロフォードの戦術に戸惑いをみせるようだと苦しい状況に追い込まれそうである。
8対1というオッズが出ているように、いまが旬のクロフォードが有利であることは誰もが認めるところである。
耐久力に課題を抱える挑戦者に何もさせずに一蹴してしまったとしても驚きには値しないかもしれない。
しかし、過去の綻びから過小評価されている印象もあるカーンの右ストレートが王者のアゴを打ち抜く可能性があることも頭の隅に置いておきたい。
いずれにしても観戦する側も集中力を求められる試合であることは間違いない。
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