日本プロ野球では今季よりリクエスト制度が導入された。
リクエスト制度とは、本塁打かファールか、アウトかセーフかといった微妙な判定の際、監督が審判に映像によるリプレー検証を要求できる制度である。
1試合に2回の権利があり、リクエストが成功すれば回数は減らない。
このリクエスト制度を、今季のプロ野球開幕から積極的に使用しているチームが多く、判定が覆るケースも多く見られた。
プロ野球で新制度リクエストの要求が相次ぐ!判定覆るケースも!
5月はじめに目にしたニュースによると、リクエストの成功率は約4割だという。
これまでは、審判による判定は”絶対”だったが、映像による正確な検証ができる今、審判の判定は”絶対”ではなくなった。
しかし、リクエスト制度による正確な判定ができるようになった一方で、あることが減ったという意見がある。
それは監督による抗議。
今までは、審判の微妙な判定に選手が必死にアピールしたり、監督が飛び出して猛抗議するという場面が見られた。
なかには、思わず手が出て退場になったり、ベースを投げ飛ばしたり、ベンチを蹴り飛ばすといった光景もあった。
リクエスト制度が導入されてからは、微妙な判定があると監督がゆっくりとベンチを出て、両手で四角のジェスチャーをしてリプレー検証を要求。
数分のリプレー検証で結果がわかれば、すぐに試合は再開。何事もなかったかのように試合は進んでいく。
選手やチームにとっては、正しい判断が下されることが一番で、何も問題ない。だが、監督による感情むき出しの猛抗議が見られなくなって寂しいという意見もあるのだ。
日刊スポーツ、プロ野球番記者コラムの記事では、『リクエスト制度で見えにくくなった「人間臭さ」』と題して、次のように書かれている。
ハイテク化が進んで客観的に判定できるだけに、戦う男たちの冷静さが際立ち「人間臭さ」が見えにくくなった。
勝負が生む熱気や激情までが薄れていないか。正確だから面白いとは言い切れない。
また、日本経済新聞の記事で、元プロ野球選手で野球評論家の山崎武司氏は、リクエスト制度に関して、「選手は何よりも正しい判定を求めているし、基本的にいい制度だと思う。映像で見れば明らかな間違いに勝敗や成績を左右されてはたまらない。選手には生活が懸かっている。」とリクエスト制度に賛同する一方で、”正確さ”の代償を指摘。
際どい判定に血相を変えてベンチを飛び出し、審判に猛抗議していた熱血監督も、今年からは両手で四角をつくって「リクエスト」とやれば終わり。口角泡を飛ばした揚げ句、思わず手が出て退場になり、ベースを投げ飛ばしたり、ベンチを蹴り飛ばしたりする光景がもう見られないと思うと少し寂しい。
付け加えれば、リクエストの権利は1度で十分だろう。判定が変われば権利は減らないのだし、実際に2度使い切るケースはほとんどないように見受けられる。
さらにもう一つ、4月7日に行われた楽天―ソフトバンク戦のあるプレーで、リクエスト制度に潜む危険性が問題になった。
5回1死走者なしの場面、ソフトバンク・デスパイネの三ゴロに対し、楽天・一塁手の今江の足が捕球の瞬間にベースから離れていたのではないかと、ソフトバンクの工藤監督がリクエストを要求した。
大型ビジョンに映し出された映像では、今江の捕球と足が離れる瞬間はほとんど同時に見え、直後にデスパイネが一塁上を走り抜けている。
結果は当初の判定通りアウトになったが、今江は「僕の一塁守備が不慣れなせいもあるかもしれないけど、僕もケガで苦労した。足を踏まれるのは怖い」と言ったという。
これまでは危険を回避するためなら審判の裁量でアウトとみなされてきたであろうプレーが、リクエストされれば審判も「みなし」ではなく、映像で正確に判定しなければいけない。
スポニチの記事では、『「一塁手の足」に関しての救済的な例外判定を明文化すべきだ。』と、新制度がはらんでいる問題点を指摘した。
審判も人間なので当然ミスはある。一瞬一瞬のプレーの中で100%正確な判定をできるわけではない。個人的には、リクエスト制度によって、より正確な判断ができるようになってよかったと思う。
もっと言えば、監督による抗議も減ってよかった。たしかに際どいプレーでのやりとりや感情が高ぶる場面、人間臭さはなくなったかもしれないし、かつては監督の猛抗議によってチームの一体感が増すということもあったかもしれない。
だけど、これが今の時代におけるプロ野球。
「ホームランかファールか?アウトかセーフか?」と、大型ビジョンに映されたリプレー検証の映像を見る観客らが一体となって盛り上がりを見せる現象も、リクエスト制度がもたらしたものだし、映像を見れば選手らも納得できる。
もちろん改善の余地はあるが、映像技術など、色々なテクノロジーがもっと発展すればさらに正確な判定ができるようになるし、ロボットが審判を務める時代がくるかもしれない。
ただ、リクエスト制度のある時代に星野監督がいたら、ベンチを飛び出して審判に猛抗議する姿はなかったかもしれないと思うと少し寂しさはある。
リクエスト制度で見えにくくなった「人間臭さ」-プロ野球番記者コラム-野球コラム:日刊スポーツ
「リクエスト」の代償と納得できぬ「申告敬遠」(写真=共同):日本経済新聞
NPBが導入したリクエスト制度に潜む危険性―スポニチ Sponichi Annex 野球