Sports-Tech(スポーツテック)とは
近年、金融におけるFinTech(フィンテック:Finance×Technology)や教育におけるEdTech(エデュテック:Education×Technology)のように、様々な業界とテクノロジーをかけ合わせた造語(◯◯テック)が使われるようになった。
スポーツ分野においても、Sports-Tech(スポーツテック:Sports×Technology)という言葉がある。
Sports-Tech(スポーツテック)とは、IT(情報技術・デジタル技術)を活用することによって、スポーツの新たな付加価値を創造したり、従来とは異なるビジネスモデルを実現したりするソリューションのことを指す。
海外では、スポーツ産業が成長産業として大きく伸びているが、日本のスポーツ産業は縮小傾向にある。
その背景として、スポーツテックの活用が遅れていることが理由のひとつだと考えている。
日本でもスポーツにテクノロジーを活用するケースが増えているが、まだまだスポーツテックという言葉自体は浸透していない。一方海外では、プロスポーツリーグやクラブ、企業がスポーツテックを積極的に活用し、すでにスポーツテック市場が大きく拡大しているといえる。
その結果、スポーツ分野における新たなビジネスの創出、増加した収益を再投資するなど、市場が自律的に成長するための「ビジネスエコシステム」が構築されている。
スポーツ産業の活性化に向けて
政府が打ち出した「日本再興戦略2016」によると、スポーツビジネスは、環境・エネルギー、IoT/人工知能と並んで、政府による日本再興戦略の柱の1つとしており、2025年にはスポーツ市場の規模を5.5兆円(2015年)から25兆円に拡大させることを目標としている。
2020年の東京オリンピック・パラリンピックを契機に、スポーツを通じた経済活性化への期待が高まっており、スポーツ産業は大きな成長力を持った市場だといえるだろう。
スポーツ産業の活性化に向けて、スポーツで収益を上げ、その収益をスポーツへ再投資する自律的好循環モデルの形成と新たなスポーツ市場の創出が必要だ。
スポーツ庁は、政策の方向性として以下の5つを挙げており、経済産業省と共同で「スポーツ未来開拓会議」を開催したり、文化庁や観光庁とも連携し、新たな地域ブランドや日本ブランド創出に向けた推進体制を整備している。
- 収益の上がるスタジアム・アリーナの建設・改修
- 競技団体等のコンテンツホルダーの経営力強化、新ビジネスの創出
- スポーツ経営人材の育成・確保
- 他産業との融合等による新スポーツ新市場の創出
- 一億総スポーツ社会の実現(スポーツ参画人口の拡大)
欧米諸国においては、プロスポーツリーグ、スタジアム・アリーナの施設整備、健康や体力づくりのためのスポーツ関連市場など、様々な分野に対して投資を加速させることで、スポーツビジネスが大きな産業となっている。
日本においても、スタジアム・アリーナ投資、スポーツ観戦、スポーツ用品、周辺産業などに対する需要を拡大させると同時に、スポーツ経営人材の育成などを通じて、競技団体のコンテンツホルダーの経営力向上に取り組むことが課題である。
先ほど挙げた5つの政策はどれも重要だが、当サイトでは、「他産業との融合等による新スポーツ新市場の創出」、とりわけ「スポーツとITの融合」に焦点を当てており、スポーツテックがスポーツ産業にもたらす影響について考えていきたい。
スポーツテックがスポーツ産業にもたらす影響
ITを活用することで、スポーツが持つ新たな価値を創造し、ビジネス機会の創造・拡大や、社会課題の解決につなげることができる。
スポーツとは、「見る」、「する」、「支える」人たちによって成り立っており、それぞれにおいて、テクノロジーがもたらす効果は大きい。
「見る」-新たな観戦アプローチ
IT活用によって、これまでにない新たな観戦アプローチが可能だ。
たとえば、試合を観戦しながら、専用アプリで選手や競技の情報を確認したり、映像圧縮技術やヘッドマウントディスプレイを用いた高臨場感の観戦体験ができる。
また、肉眼では捉えられない競技のスピードやパワーを、アニメーションや光、数値データ等で視覚化し、競技をよく知らない人でもスポーツを楽しめるようになる。
さらに、テレビ以外にスマホやタブレット、パソコンでスポーツコンテンツを提供するインターネット動画配信サービスも増えており、外出中にも視聴できるようになった。
スマートスタジアムによるITを活用した新たな映像サービス・観戦スタイル
「支える」-あらゆるデータを分析
小さなデバイスで、GPS、心拍数、走行距離、スピード、加速度等を瞬時に測定、平均値やトップ選手のデータとの比較ができるなど、より効果的なトレーニングや、リアルタイムでの指示ができる。
競技チームが、あらゆるデータを分析・管理し、試合での戦略確認に活用しているケースも多い。
また、3Dセンサーや動きの認識・技解析の技術によって、競技者へのマーカー装着が不要に。高度化、複雑化した技の判定を容易化することで、時間短縮にもなる。
さらに、スポーツを学びたい人と教える人、スポーツ好きのコミュニティ形成のための、スポーツに関するマッチングアプリが開発されたり、スポーツ関連のクラウドファンディングなどもある。
「する」-誰でもスポーツが楽しめる
スポーツとテクノロジー、文化を融合することで、誰でもスポーツを楽しめるようになる。
体を動かすことは、健康増進や予防医療にもつながり、あらゆる人々のQOL(生活の質)向上や、社会課題の解決に役立つ。
重心の取り方・筋肉の動きなど、アスリートの身体情報を応用することで、より効果的なリハビリテーションも可能だ。
心拍数や睡眠データを測れるウェアラブルもあり、日常生活あるいはスポーツでの活動量・疲労度などが可視化される。
新しいスポーツの形
従来のスポーツの定義には当てはまらないような、新しいスポーツの形が注目を集めている。
その1つが「eスポーツ」である。
eスポーツとは、エレクトロニック・スポーツの略で、プロゲーマーたちが対戦型ゲームなどで競うといったもの。
これまでは、体を動かすことがスポーツだという認識が強かったが、eスポーツは1つのスポーツ・競技として捉えられている。
日本での認知度は低いが、世界で見ればプレイヤー・ファンが多く、多くの企業が参入している分野だ。
eスポーツ業界の売上は、2018年で9億500万ドル(約970億円)を上回る見込みだとも言われている。
スポーツテックによる産業革命
スポーツテックとはどういうものか、ある程度わかっていただけただろうか。
日本政府も掲げているスポーツ産業の活性化。その1つとしてスポーツテックも欠かせない政策のひとつだ。
ITを活用することによって、従来とは違った観戦体験ができるようになり、スポーツをする人もデータの可視化によって、効率よくトレーニングに取り組むことができる。
また、マッチングアプリなどのサービスを通じ、スポーツをする人が増えることが期待される。
2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けて、さらにその後もスポーツ産業が発展していくように、スポーツテックの波も今後ますます加速していくはずだ。
当サイトの運営者も、スポーツテックの知見をさらに深め、常に新しい情報を発信していけたらと思う。